遅い!!!!!!!感想書くのが!!!
面白かったです!!
全然そうは見えません - 笹幡みなみ
さくらが受けた否定の重ね方が本当に厳しくて泣いた。玲香・母親のコンボがトラウマになるのに十分すぎる。
さくら視点での玲香の描写は超主役級で、話としては脇なはずなのにまたそれが辛い。玲香の拒否に玲香だけでなくて人生全てがのしかかってくるのも辛い。そのあとの母親の反応がリアルすぎるのも辛い。
でもよく読むと母親はメールで歩み寄ろうとしてるし、姉のサポートが的確なので、実はあとはさくら自身が進めるだけの準備は整ってたように思えた。作中ではかなりはっきり救われたし。少しずつ渚といる素の自分を大事にしていって、傷を癒やしてほしいです。
渚のほうが一人の世界を持ってて単純じゃなくて、最初全然そうは見えませんでした(ドヤ顔)。小5渚の玄関前のシーンが好き。祖母の家に向かわずランドセルのフラップ敷いて本読むことを選ぶところとか。フラップ頭に被せるのかわいい。雨が上がるまでの描写もすごくいい。
ただ、はっきりと「同じような人」を求めてるのが、さくらを気遣うようでそうではなくて、排他な冷たさを渚自身が自覚して、じゃあどうするという話だったと思う。あのクレープの時さくらから距離を取る選択も普通にありえた気がする、というか二人の違いを誤魔化さずに書くものだから、やり取りが読んでて恐ろしい。本当に紙一重だった気がする。実際トーチ掴みそこねてるけど。
あそこから引かずにさくらに向かっていったのが、さくらへの想いもあったと思うけど、渚自身が変化していってる感じがあってよかった。いわゆる恋愛感情じゃなくても、はっきり言語化できなくても、作中で簡単に解決させずにこれからを暖かく提示したのが誠実な気がした。二者の関係は固有なんですよ固有。一般化しないでそのまま育んでくれ。
小説としては読みながら脳に描かせたり感情を呼び起こしたり、火を織り交ぜたりする技が凄いので、文章を読むのが楽しかったです。
書きたいことが多すぎて感想が纏められず、これ書くのにえらい苦労した。それだけ読み応えがありました。
海へ棄てに - 紙月真魚
「ひとりで浸って解決してんじゃねーよこっちがどんだけ心配したと思ってんだ」を直球でぶつける菜摘さんが最高。キレるまでずっと先輩の独白と感傷が描かれるので最初に一瞬(同じ失踪が起こってることを)感じつつ読みながら薄れてきた感情をユキちゃんが最後の3ページですべて叩き込んでくれたので、個人的には良いぞ!!ってなった。先輩-叔母の視点だとそりゃそう単純じゃないだろうけど不在者だろうがと指弾しつつ自分は負けんと振り切るのは完全に主人公。かっこいい。
ところで、先輩と追う後輩という構図が「全然そうは見えません」と(たぶん偶然)似ている気がしたが、自分はユキちゃんの主人公ムーブを直球で楽しんだ一方で、「全然そうは見えません」の方は現実というか生身過ぎて肝を冷やしたりしてて、そういう対比を感じ取っていた。
・ユキちゃんのように怒れるかどうかは現実にはかなり難しい気がするが理想だし読後感も良い。
・さくら-渚はより現実に近い気がするし、一歩間違ったらやばい。
still - 鷲羽巧
時代はアナログ。居る/居ない、進級/留年のデジタルに向かってアナログに線を引き続けることで止まりながら抗ってる、と解釈したけど、感触が文と絵で相互作用して伝わってきて良かった。最初挿絵も書けるタイプの作者か、ずるい(褒めている)よなと思ってたが、そんななので単なる挿絵ではなかった。ふつうさらっと見流すところ、文で描かれる線を引く感触が左ページと対応してて、なんかp69あたりはしばらくじっと眺めていた。右の文章の焦りに対して、左の絵は本当に時が留まってるように見えた。
古書が好きではない、の下り、「あなた」は進んでいる・先へつながっている・動いている、という感じで、「わたし」は止まっている・留まっている、みたいな対比を感じたけど、「わたし」は止まりながら線を引くことで抗ってるように思えて、たぶん「あなた」が取る行動じゃないんだろうなと感じる。「行き止まりだよ」と言うとき後ろ向きの意味が実は入ってないんじゃないかと思った。留まりながら動いてるみたいな、行き止まりに向かって線を引くみたいな。焦りもあるんだろうけど、この人いいよなと思った。
切断された言葉 - 茎ひとみ
やばい主人公(達?)の話。最後の行為の納まりが強すぎた。強い相互作用の話か?
結婚式への辟易としてる感じが普通の主人公かと思いきや、エピソードが固有の結界すぎてホラーSFの括りだったっけ?ってなってた。レギュレーションは完全に満たしてた。
ただ、正直主人公格の側からああいう行動を取るタイプの話に耐性がないので、実際はやや困惑しながら読んだ。やっぱりこっちの菜摘さんはちょっと可哀想というか、やったことは純粋に虐めなので個人的にはどうしても読んでて抵抗がある……グッドエンドが好きなので……。とはいえ最後の(菜摘さんから見て)人間らしい乗り越えから、指会話で空間歪み系へ入って戻れなくなる感じの展開は強烈だった。こわい。
ウニは育つのに五年かかる - 小野繙
ウニが激重すぎる。冒頭部のノリを罠にするな。
ウニ狂いのなのです少女、自分が知ってる某キャラクターの某作者による二次創作とかが頭に浮かびつつ、とにかくウニが食べたいのです!という文章を読みながら左下の「ウニは育つのに五年かかる」というタイトルが目に入り若干の不穏さを感じたりしてた。
しかし物語の中心は「ウニさん」であり、こんなにもキャラがぶち抜けてる夢野まほろが激重百合の狂言回しになる、すごいバランス。美里の件は読みながら予測できててもおかしくなかった気がするが自分は開示時に普通に衝撃を食らい、重さが増え続け、p121あたりでは押しつぶされる一歩手前。残りの2pでどう解決させるのかと思ってたがそうではなく、5年経っておそらく美里自身で解決したことを感じさせてくれた(と解釈した)のが良かった。夢野まほろにとってはウニを5年育てて最後に食べるというのは最大限の愛情表現で、苦しんでいる美里はそれでも何年かかかって良い方法へ持っていけるとまほろは信じていて、自分が食べる-自分とウニさんという関係ではないと受け入れての最後の映像と思ったし、美里のことが本当に好きだったんだなといま書きながら思った。
不可侵条約 - murashit
いやわからなかったです……。相当読み込んだけどだめだった。読書というより考察ゲームになってるだろ。以下想定。
- 太字の挿入部はト書き=舞台にいる人間への指示。
- 現実の描写ではない
- 召使が「奥方さま?」と声を掛ける指示はスルーされた。
- 「客席から店内にのぼってくる観客」が現れなかったため、「私」は客席に声を掛けるべきだったかと後悔した。
- 「カウンターの客が退場」などという指示がないので、「私」は舞台から外へ出ることができない
- 「ガチャンという音、スポットライト。」の部分は他に比べてほんの少し太字。台本ではなく、予定されてなかったアクシデント的な?
- ということはリアルタイムで指示が出されていた。
- コトハ・わたしのやり取りにも指示が出ていた?
- そしてそのト書きは店主・「私」には見えない。不可侵ルール?
- つまり「店主・私」 vs 「コトハ・わたし」の脱出ゲームだったんだよ!(絶対違う)
- コトハ・わたしの会話に対する「私」の思考は、やりとりにフィットするように即興で建てている設定のように思える。
- より自然に演じたほうが席を立てる、という目標設定?
- にしては思考だけの「私」は不利でしょそれ。わからん。
- それか、「コトハ・わたし」の劇を、次は残った「私」が演じなくてはならず、思考をトレースする必要があった?
- にしては思考だけの「私」は不利でしょそれ。わからん。
- より自然に演じたほうが席を立てる、という目標設定?
舞台設定を考えれば考えるほど、コトハ・わたしの会話の内容を切り離してたことに違和感があったので、この会話の中にデカいヒントがあったのかもしれない。
ところでその会話、コトハに語る言葉が俗な留年百合すぎてすごかった。「べつに」とか「だって」とかを挿入する位置が若い面倒な女すぎた。「前からいおうとおもってたんだけど、前からいおうとおもってたんだけど、いっそいまいっちゃうけど……」キレすぎ。
パンケーキの重ね方。 - 孔田多紀
これシリーズ物だったんですね、すみません未読です……。
初回は数久井さんと響子のやり取りなにかあったか?とか結構読み込んで検討してたけど、前編があったことを頭に入れて読み返すと納得できるとこが多かった。いやそりゃそうだろ、急に新登場の名探偵のところにパンケーキ作りにいって、急に償いを求める主人公のコミュ力おかしいだろ。真雪-響子、真雪-夜々、遠見-紗子、夢亜-琴子をこの短い話で解決できるわけがない。多重奏すぎる。爛柯ちゃんはどこに重なるんですか?
琴子の懸念を想像するのが正直一番難しかったかな……。まあ響子もよく想像できなかったって書いてたが。祖父・親父がなんだと開き直ってもよかった気がするし、成績問題が琴子をそこまでさせるほど重いのかとも感じた。「夢亜の成績が不安なので付き合いを自粛して、部活も影響ない範囲にしよう」と素直に提案できなかったかと思うが、面白くない大人の意見か。追い詰められるほどにK女子校が滅茶滅茶厳しいのかもしれない。シリーズの最初から読んだらまた来ます。
春にはぐれる - 織戸久貴
倉科海莉ちゃんが良すぎる。自分には刺さった。
千咲と潮木先輩が八重樫先輩について話すところ、千咲から見て「およそ他人の係る余地がない美談」であって圧倒的排他、を感じながらも、ピンク髪の理由も駄目押しで食らってこの上なく断絶を予感しつつも告白して、ここ海莉ちゃんに言わせれば自傷してんじゃねーよとなるよな、ってあとで振り返って思う。
いや、一連を読みながら海莉ちゃんとの初エンカウントまでの段階では、読み手としては(コロナや有事な世相の借用をしつつ説得力を増強させられ)千咲側で完璧にノックアウトして臥せメンタルだったし、なんでこんな酷い止めを刺すのかとまで思ってたが、なんかこう、ばっっっかじゃないですかと言われてほんまやバカやったかも???ってなり、LINEくらい交換しろやなにを微妙な距離感自演してお互い傷つけ合ってんの?っていわれてほんまやLINEくらい交換しとくべきだったなとか思った体験がすごかった。次元が拡張されたような感じ(急すぎて合わない人もいるかも?と少し思ったけど自分には刺さりまくったので、小説力が凄いのかもしれない)。
つまり自分としては千咲の臥せり具合に共感する側なので、つまり海莉ちゃんの暴力的な救済にはメチャクチャに弱いんすよ。「あなたたち留年生っていうのは見えないマイノリティのひとつなんです。」の行は各マイノリティメンタルへの福音だし、千咲の後ろ向き貸借関係解釈に対して感じ取った非対称性や違和感を、海莉ちゃんが速攻で展開してスマートに救済していくし。「なら、壊れそうになるたび抱きしめてあげます。(以下略全部読め)」、こういう受容にほんとに弱いんですよ。マイノリティなので(皆自分をマイノリティだと思っていることは既知)。都合が良すぎるとも言える。
でも暴力的救済を施しつつ、海莉ちゃんが千咲先輩ラブになった理由はあの初エンカウントだと思ってて、それってあのときの受容であってまた悶えてしまう。そこまで単純な受容ではないのだけど。発声のときの彼女の揺れはいま読み返すと、ギリギリ保ってた上で、千咲を死なせない最善を狙って刺してると解釈した。ほんとうに強い。